2012年4月23日月曜日

ドラゴンの新たな牙:中国軍の実力:(英エコノミスト誌) 2012年4月7日号

_

● 米国の国防費は現在その4.5倍ある。
が、今のペースが続けば、中国の国防予算は2035年以降、米国を追い越すだろう。



JB PRESS 2012.04.20(金)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35013
ドラゴンの新たな牙:中国軍の実力
(英エコノミスト誌 2012年4月7日号)


世界最大規模の軍備増強を垣間見る稀な機会



●中国の軍拡がアジア太平洋地域のパワーバランスを大きく変えつつある〔AFPBB News〕

2010年に行われた東南アジア諸国の会合で、中国の楊潔チ外相は、同地域における中国の振る舞いについて次々と不満を浴びせられ、礼儀正しい指導者ならば普通は飲み込んでおきたいと思うような言葉を口走ってしまった。

「中国は大国、ほかは小国。それが事実だ」――。

確かに、その通りだ。
国土や人口だけではない。
軍事力においても、中国は大国だ。
中国共産党は現在、世界最大規模の軍備増強を進めている。
それもまた事実であって、世界はこの事実を受け入れなければならない。

中国が軍の近代化を急速に進めていることは間違いない。
ただし、実際にどれくらいの金額を投じているかは定かではない。
中国の国防予算はここ20年間、ほぼ確実に毎年2ケタの増加を続けてきた。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、中国の2000年の国防費は300億ドル余りだったが、2010年には1200億ドル近くまで増えているという。

■2035年には米国を抜く国防費

SIPRIは通常、中国政府が発表する
 公式の数字に50%ほど足したものを国防費

としている。
中国の国防予算には、研究開発といった基本的な項目さえも含まれていないためだ。中国政府の最新の発表にこれらの項目を加えると、
2012年の国防予算は約1600億ドル
になる。

そうした巨額の予算が中国人民解放軍の戦力を変えつつある。
今から20年前、中国の軍事力は何より膨大な兵力に基づくものだった。
兵士たちの主な任務は、敵と直接戦うことや土地を占領することだった。

現在でも230万人もの常備兵力を抱える人民解放軍は、世界最大の規模を誇る。 
しかし、人民解放軍の真の戦力という面では、兵士の人数以外の要素が占める割合が拡大している。

米国防総省の戦略担当者たちは、中国は専門用語で「A2/AD」と呼ばれる能力を手に入れようとしていると考えている。

A2/ADとは
「接近阻止/領域拒否」能力のことで、具体的には、ピンポイントで地上攻撃や対艦ミサイル攻撃を行えるようにすること、新型潜水艦隊を増強すること、サイバー兵器や対衛星兵器により遠くから他国の軍事資源を破壊、無力化できるようにすることを指す。

西太平洋で言えば、この能力は、米国の空母群や沖縄、韓国、さらにはグアムの空軍基地を標的にして、危険な状態に追いやることを意味する。

目的はアジアにおける米国の戦力投射のリスクとコストを高めることだ。
そうなれば、米国の同盟国は、米国に依存して自国への侵略を抑止したり、もっと微妙な形の威嚇行為に対抗したりできなくなる。

さらに中国は、台湾が正式な独立を宣言しようとした場合、脅し文句として繰り返し唱えてきた「占領」を実行できるようになる。

中国の軍備拡大はアジアに警鐘を鳴らし、すでに米国の防衛政策を転換させている。
米国のバラク・オバマ大統領とレオン・パネッタ国防長官が1月に発表した新「戦略指針」は、米国政府の全員がすでに知っていることを正式に認めた。
それは優先地域をアジアに移す機が熟し、現在進行中であるということだ。


●米国はアジアシフトの姿勢を明確にしている〔AFPBB News〕

「米軍は引き続き世界の安全保障に貢献していくが、必要に迫られ、アジア太平洋地域への比重を高めていく」と報告書は述べている。
米国は今後10年間で5000億ドル規模の国防予算削減を計画している。

それでも、
「潜在的な敵を確実に抑止し、その目的の達成を阻むため、米国の接近や作戦行動の自由が脅かされている地域で戦力を投射する能力は維持しなければならない」
と、戦略指針は述べる。

これが何を意味しているかはかなり明白だ。
イラクとアフガニスタンでの軍事作戦に気を取られていた米国は、世界で最も経済が活発な地域を見過ごしてきた。
特に、軍事力と政治的な自己主張を強めている中国への対応は不十分だった。

米国の外務高官によれば、中国は地域の覇権国になるという野心を持ち、次第にその力を蓄えているという。
中国は、セオドア・ルーズベルト大統領以降のすべての米国政権が、安全保障上の要地と明言してきた地域から、断固として米国を締め出す努力を続けている。
また、東南アジア諸国を「当然のこととして」自国の影響下に引き込もうとしている。

米国はこれに対応しなければならない。
対応の初期の兆候として、オバマ大統領は2011年11月、近い将来2500人の海兵隊員をオーストラリアに駐留させると発表した。
2012年2月には、フィリピン駐留部隊の増強に向けて話し合いを開始している。

■不確定性原理

中国が世界を不安に陥れている理由は、軍拡の規模だけではない。
手に入れた力をどう使うのか、さらには誰が本当の責任者なのかも分からないことも不安を大きくしている。
米国の戦略指針にも懸念が記されている。
「域内の摩擦を回避するため、中国の軍事力の拡大には戦略意図の明示が伴わなければならない」

中国は表向きには、古くからのスローガンで言うと「和平崛起(平和的な台頭)」に取り組んでいる。
中国の外交政策の専門家たちは、ルールに基づく多極的な世界を目指していると強調する。
中国は自らを米国の「対等に近い」軍事的ライバルと考えているのではないかと指摘されると、誰もが信じられないと首を振る。

しかし、南シナ海や東シナ海の状況は異なる。
資源が豊富なこれらの海域では、1年半ほど前から中国船と日本やベトナム、韓国、フィリピンの船が領有権を巡って何度も衝突している。

中国国営の環球時報の英語版「グローバル・タイムズ」は、2011年10月に次のような好戦的な論説を掲載し、警告を発した。
これらの国は、中国への対応を変えるつもりがないのであれば、大砲の音が鳴り響く覚悟をしておくべきだ。
 我々はその準備をしておかなければならない。
 それが海上の紛争を解決する唯一の方法かもしれないからだ


これは政府の公式見解ではない。
しかし検閲官も、国家主義的な鬱憤を晴らす内容であれば、報道の自由に寛大なようだ。

露骨な表現を避ける外務官僚たちは、FOXニュースの中国版とも言えるグローバル・タイムズにばつの悪い思いをしているかもしれない。
しかし、この論説の見解は、急激に拡大する海軍の熱血司令官たちの考え方とかけ離れているわけではない。

さらに、人民解放軍が2005年に基本原則としてまとめた「軍事戦略の科学」の中にも、歯に衣着せぬ表現がある。

「中国の軍事戦略の本質は積極的な防衛」
であるが、もし
「敵が我々の国益を損なうようなことをすれば、それはすなわち敵が先に発砲したことになる」。
その場合、人民解放軍の任務は
「先制攻撃を仕掛けて何としてでも敵を制すること」
となる。

さらに憂慮すべき状況を作り出しているのは、実際には誰が武器や船舶を統制しているかについての透明性が欠けているという事実だ。

■国家機関ではない軍

人民解放軍を動かしているのは、国防省ではなく、共産党中央軍事委員会〔AFPBB News〕

中国はほかの大国と異なり、軍が正式には国家の機関ではない。
人民解放軍は中国共産党の配下にあり、国防省ではなく共産党中央軍事委員会が動かしている。

中国では党と政府が非常に近い関係にあるのは明らかだが、
党の方が政府より不透明であり、
そのため
 人民解放軍が誰に忠誠を捧げているのか、どこに優先事項があるのか
が外部から見えにくい。

米軍と中国人民解放軍がより良い関係を築けば、この暗い片隅にいくらか光が当たるだろう。 
しかし、台湾を巡って米国との緊張が高まるたび、人民解放軍はしばしば「罰」として軍同士の交流を停止する。

また人民解放軍は、両軍の関係が深まった場合に米国が得るかもしれない利益について、被害妄想的になっている。

これだけ不確定要素があると、たとえ世界が中国の意図は概ね善意にあるに違いないと信じても、その想定だけに基づいて戦略を立てるのは難しい。
しかも、中国の善意を信じない人々は間違いなくいる。

米国の有力なシンクタンク、戦略予算評価センター(CSBA)が指摘する通り、独裁体制の意図は即座に変化し得る。
中国が高めてきた能力の性質や規模も重要だ。

■軍備増強の歴史

中国は間欠的に軍備を増強してきた。
最初は1950年代前半、ソビエト連邦が中国の最重要同盟国であり、武器の供給国だった時代だ。

ところが1960年代半ば、毛沢東が10年にわたる文化大革命を開始し、軍備の増強は突然中断した。
中国とソ連は国境を巡って戦争に近い状態となり、中国は最初の核実験を実施した。

第2段階の近代化は1980年代、鄧小平の指揮下で開始された。
鄧小平は国全体を改革しようと試み、軍も例外ではなかった。

しかし鄧小平は人民解放軍に対し、優先するのはあくまで経済だと伝えた。
予算は国内総生産(GDP)の1.5%にも満たず、軍の司令官たちは我慢を強いられた。

第3段階は1990年代前半に始まった。
欧米諸国がイラク軍に用いたハイテク兵器の破壊力に衝撃を受け、人民解放軍は自らの巨大な地上部隊が軍事的に時代遅れだと気付かされた。

北京の軍事科学研究院に所属する解放軍の学者たちは、いわゆる「軍事革命」(RMA)について米国のシンクタンクからあらゆることを学び始めた。
RMAとは、飛躍的に高まるコンピューターの処理能力が可能にした戦略や兵器の変化のことだ。

直近の4つの防衛白書の筆頭著者である陳舟司令官は、軍事科学研究院で本誌(英エコノミスト)の取材に応じ、次のように振り返った。
 「我々は徹底的にRMAを研究した。
 我々の英雄は米国防総省のアンディー・マーシャル氏(ネットアセスメント室を率いた実力者で、国防総省の最高未来主義者の異名を持つ)だ。
 マーシャル氏が記した文書は一語一句を翻訳した」

1993年、共産党の江沢民総書記は、RMAを中国の軍事戦略の中心に据えた。
 人民解放軍は
 「ハイテク状況下での局地戦」
に勝利できる部隊に変わる必要があった。
 軍事作戦は短期的、決定的で、地理的な範囲と政治的な目標において限定的なものになる。

以降、巨額の予算が空軍と海軍、そして、核弾頭と通常弾頭のミサイルを運用する第二砲兵部隊に向けられるようになった。

さらなる変化は2002年と2004年に訪れた。
ハイテク兵器だけでは不十分になったのだ。
重要なのは中国人が言うところの「情報化」により戦場ですべてを編み合わせる能力だ。

欧米諸国では「統合されたC4ISR」と呼ばれるものだ(4つのCは指揮=command、統制=control、通信=communication、コンピューター=computer、ISRは諜報=intelligence、監視=surveillance、偵察=reconnaissanceの略。国防総省は略語を好む)。

陳司令官は2010年までを「近代化した部隊の基礎を築く」期間と表現する。
 続く10年間にはいわゆる機械化(高度な軍事的プラットフォームの配備)と情報化(それらを1つのネットワークに統合する)が進められるはずだ。
この2つのプロセスは2020年までに装備、統合、訓練を完了することになっている。

しかし、完全な情報化を実現するのはもっと先になると、陳司令官は考えている。
「大きな問題は、まだ部分的にしか機械化できていないことだ。
技術が重複し、飛躍的に発展している場合、投資の判断に迷うことがある」。

欧米諸国は2つのプロセスを順番に進め、軍の改革を成し遂げられたのに対し、中国は2つを同時に行おうとしている。
それでも、
 「自らの強みを最大限に生かして敵の弱みを突き」、
技術的に先を行く相手さえも負かすことを目的とした巨額の投資に滞りはない。

CSBAは2010年に、現在の傾向に基づいて中国が10年以内に配備できると予想される基本軍事要素を列挙した。
具体的には、人工衛星と無人偵察機、地対地ミサイルと対艦ミサイル数千基、従来型のステルス潜水艦60艦以上と原子力潜水艦を少なくとも6艦、有人、無人のステルス戦闘機、宇宙戦争、サイバー戦争への対応能力などだ。

さらに、海軍は米国のような空母を主体とする部隊に(巨額を投じて)移行するかどうかを決めなければならない。
 空母を持つことは、いずれ自国から遠く離れた場所へ戦力投射するという野望の明白な宣言になる。
また空母の配備は、近い将来、日本やインドに予想される動きに対応するものにもなる。

恐らく中国は5~10年以内に小型空母を3隻ほど手に入れるだろう。
ただし、これを有効利用することを学ぶまでにはさらに時間がかかると、軍事アナリストは予想している。

■新たな砲艦外交

これが恐るべき資産になるのは間違いない。
 新たな軍事力は大部分において「非対称」だ。
つまり、西太平洋における米国の軍事力に直接対抗するのではなく、
 米軍の脆弱性を利用するよう設計された戦力だ。
では、こうした資産はどう利用される可能性があるのか?

中国の軍近代化の最大の動機は台湾だ。
 米国は1996年、中国が台湾の港近くで弾道ミサイル演習を行った際、台湾海峡に2個の空母群を派遣した。

2002年以降、中国の戦略は主に、中台間の武力衝突の可能性を軸として築かれてきた。
中国軍が、台湾からの反撃に打ち勝つだけでなく、介入を図る米国の試みを防いだり、遅らせたり、破ったりしなければならない局面だ。

CSBAと、やはり米国のシンクタンクのランド研究所の最近のリポートによれば、中国は2020年までに、米国の空母艦隊と戦闘機が「第1列島線」(北はアリューシャン列島から台湾、フィリピン、ボルネオまで続く一帯)の内側で作戦を展開するのを阻止する手段を手に入れるという。

中国は2005年に反国家分裂法を制定した。
 台湾が独立を宣言したり、北京の中央政府が平和的な統一の可能性が尽きたと考えたりした時に、中国が軍事対応に踏み切ることを定めた法だ。

中国国際問題研究所(中国外務省傘下の主要シンクタンク)のジア・シウドン氏は次のように話している。

「最優先事項は台湾だ。
 本土は辛抱強いが、独立は台湾の未来ではない。
 中国軍は、介入してくる勢力を撃退する用意ができていないとならない。
 米国は、分裂から生じる衝突の際に何をするかについて、『戦略的曖昧性』と呼ぶ立場を維持したがる。我々の側に曖昧なところは一切ない。
 衝突が起きるのを防ぐために、持っている手段はすべて使う」

台湾政策が中国の軍事計画策定の当面の焦点だったとすれば、中国が手に入れている軍事能力の大きさは、同国にほかの選択肢と誘惑を与える。
 胡錦濤国家主席は2004年に、人民解放軍は「新たな歴史的任務」を遂行できるようになると述べた。そうした任務には、国連の平和維持活動も含まれる。

中国は近年、安全保障理事会の常任理事国5カ国の中で、平和維持部隊に最大の貢献を果たしてきた。
 だが、新たな任務の大半の責任は海軍が負ってきた。
 海軍は中国の敵国がシーレーンに立ち入るのを阻止するという本来の任務に加え、近隣海域やさらに遠方まで戦力投射することを求められているのだ。

海軍は自らを、果てしなく拡大し続ける中国の経済的利益の守護者と見なしているようだ。
ここには、中国の領有権の主張(例えば、南シナ海の大半を排他的経済水域と見なすという主張など)を支えるほか、中国の海運業の巨大な影響力を守り、エネルギーと原材料へのアクセスを保護し、急増する在外中国人労働者(現在は約500万人だが、2020年には1億人に増えると見られている)を守ることが含まれる。

強力な駆逐艦や誘導ミサイルを配備した双胴船、ステルスフリゲート艦の艦隊が増えているおかげで、海軍は大規模な「グリーンウォーター」作戦を展開できる(つまり、沿岸部のみの任務ではなく、近海に広がる地域作戦のこと)。

海軍は、もっと長距離の「ブルーウォーター(外洋)」での展開能力も開発している。
2009年前半、中国海軍は3隻の護衛艦隊でアデン湾沖での海賊対策の警備を始めた。
昨年は、このうち1隻が、リビアにいる3万5000人の中国人労働者を避難させるために、地中海に派遣された。
中国の空軍と協力して実行された見事な兵站活動だった。

■アジア諸国と西側諸国の懸念

中国の近隣諸国と西側諸国全般がこうした展開に不安を抱くのは驚くことではない。

台湾に向けられた戦力の射距離と、他国の軍を水平線の向こうに追い出す中国の「A2/AD」の潜在力は既に、米国と同盟関係にあるアジア諸国の間で、自国の安全を保証してくれる米国が常にここにいてくれるという確信を損ねた。

オバマ大統領のアジアシフトはこうした疑念を和らげるのに一定の効果があるかもしれない。
また、米国の同盟国も、自前のA2/ADを開発するなど、もっと自衛に務めなければならない。

しかし、国防費の長期的なトレンドは中国に有利だ。
中国がアジアに専念できるのに対し、米国は引き続きグローバルな責任を負わなければならない。

中国というドラゴンに対するアジア諸国の懸念は消え去ることはないわけだ。

■3つの制約要因

とはいえ、中国からの脅威は誇張してはならない。
同国には、3つの制約要因がある。

第1に旧ソ連とは異なり、中国はグローバルな経済システムの安定に対して極めて重大な国益を持つ。
軍の指導者たちは絶えず、いまだに中所得国であり、非常に貧しい人を大勢抱えた国の発展は、軍事的な野心より優先されると強調している。

また、国防費の増加は、GDPに占める軍事費のシェア拡大ではなく、経済成長を映したものだ。
中国が投じる国防費は長年、GDP比で一定の割合を保ってきた(米国がGDP比約4.7%を国防費に費やしているのに対し、中国は2%を若干上回る程度)。

中国が国防費を一定に保つ意思が本当に試されるのは、中国の急激な経済成長が一段と減速し始める時だ。
 だが、過去の経験からすると、中国の指導者は今後も、自分たちの支配力に対する外部からの脅威よりも、内部の脅威の方を心配するだろう。
昨年は、国内の治安維持費が初めて軍事費を上回った。

また、人口が急速に高齢化しているため、医療制度の改善を求める要求に応えることが、軍事費の維持よりも優先順位が高くなると考えてまず間違いないだろう。
その他すべての大国と同様、中国も銃か杖かという選択を迫られるのだ。

第2に、一部の実利的な米国の政策立案者が認めるように、中国のような重要性と歴史を持つ国が世界における自国の位置づけに関して一定の感覚を持ち、それに見合う軍を持とうとするのは、意外でも衝撃的でもない。
 実際、西側諸国は時折、中国の軍事力に対して矛盾した立場を取り、不安を抱くと同時に、中国に世界秩序に対する責任をもっと負うよう要請する。

軍事科学院の姚雲竹氏は次のように話している。
「我々は、より多くのことをすれば非難され、することを減らせば非難される。
 西側は何を望んでいるのか決めなければならない。
 軍事的な国際秩序は米国主導の北大西洋条約機構(NATO)とアジアの2国間同盟だ。
中国が参加すべき世界貿易機関(WTO)のような組織がない」

第3に、人民解放軍は紙の上では恐るべき存在に見えるが、実際はそれほどではないかもしれない。
 中国の軍事技術は、1986年の天安門広場での抗議行動後に課された西側諸国の武器禁輸措置の影響を受けてきた。
例えば、中国は高性能ジェットエンジンをなかなか開発できない。

西側の防衛企業は、自社が中国発と見られるサイバー攻撃をよく受けるのは、このためだと考えている。

中国の防衛産業は前進しているかもしれないが、依然として細分化したままで、非効率なうえ、中国の地域の競合国であるインドとベトナムにも同じものを喜んで売るロシアからのハイテク輸入に過度に依存している。

人民解放軍は、最近の戦闘経験がほとんどない。
 本物の敵国と最後に戦ったのは、1979年の対ベトナム戦争で、その時は面目を失った。

■米国の軍事力とは依然30年、50年の開き

対照的に、10年にわたる戦闘で、米軍は専門性を新たなレベルまで磨き上げた。

人民解放軍が、次第に参加要請を受ける機会が増えた複雑な共同作戦を実践できるかどうか、ある程度疑問が残るに違いない。

軍事科学院の姚大将は、米軍と中国軍のギャップは「少なくとも30年、ことによれば50年ほどある」と言う。
 同氏いわく、
 「中国は米国に匹敵する軍事大国になる必要はない。
 だが恐らく、我々が実際、同等の競争相手になる頃には、両国の指導者は問題に対処する見識を持っているだろう」。

今後数十年間の世界の安全保障は、姚大将の期待が現実になることにかかっている。

© 2012 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。





_